「エクストラバージンオリーブオイルとは その②」
オリーブオイルは、大きく精製オイルと非精製オイルに分けられると前回お話しましたが、非精製オイルのことをバージンオイルといいます。そして、同じバージンオイルでも、化学検査の特性と、オリーブオイル鑑定士の実際のテイスティングによる官能特製の二つの試験をクリアした、特に優れたものだけをエクストラバージンオリーブオイルと呼びます。
その基準を定義している団体でもっとも一般的なのが、IOC(国際オリーブオイルカウンシル)の定める定義です。
まず、化学特性としては、オイルの劣化度合いを示す数値である「酸度」が0.8%よりも低い値であること。
現実にオリーブを栽培して搾油をしている私たちからすると、実はこの0.8%という数値では、高品質オリーブオイルというには少しばかり心もとない値です
日本におけるオリーブ栽培の発祥地であり、最大生産地である香川県で製造されるオリーブオイルの酸度は、ほぼ全ての生産者が酸度0.3%以下の基準をクリアしています。
前回デフェットオイルのお話をした時にも書きましたが、デフェットは「人災」です。ちゃんとした製造工程を踏んで丁寧な仕事を心がければ、酸度が0.2%を超えることは、通常ないはずなんです。
エクストラバージンオリーブオイルのもう一つの化学基準は、実を採取してから72時間以内に搾油すること。オリーブの酸化は、オリーブの実を収穫するときに果梗(かこう:果実のぶら下がっている枝)から実が離れた瞬間から始まります。ですから酸化を抑えるためにはできるだけ早く搾油してしまうことが大事なんです。理想的なオリーブオイルを搾ろうと思うと、この72時間以内というのも、心もとない基準です。高い意識で優れた品質のオイルを搾ろうと思っている生産者は、収穫から6〜24時間以内には搾油するようにしています。
エクストラバージンオリーブオイルを名乗るためには、以上の二つの化学的・定量的条件に加えて、最後にオリーブオイル鑑定士による「官能試験」すなわち人間の味覚と嗅覚による審査を経て、それに合格することが求められます。エクストラバージンオイルとは、これらの厳しい基準をクリアした、最高品質ランクに対する称号なのです。
ところが現実には、エクストラバージンオリーブオイルと書かれて販売されているオイルのほとんどすべてがAvinado(発酵臭)~NOTE記事「オリーブオイルのデフェット」参照~という欠陥を持っています。今となってはこの厳しい基準が守られないまま何十年も続いてしまったため、もはやこちらがスタンダードになってしまっているのが現実です。
収穫の時に、できるだけ実を傷つけないように摘むのは、酸化を抑えるのに有効なことです。傷が入っていれば、そこからどんどん酸化が進んでしまうわけです。桃の表面を指で突くとたちまちそこから腐っていきますよね、あれと同じ理屈です。ヨーロッパでは、通常、オリーブの収穫は、オリーブの木の下に傘のオバケのようなネットを敷いて、シェーカーと呼ばれる機械で樹をゆすることで、バラバラと下に落として行います。それでも落ちない実は、ほうきのような道具でバサバサ叩き落とします。この収穫方法では、当然、実には傷かつくので酸化しやすくなります。
理想的な収穫ということになると、「ひとつづつ手で摘む」ということになります。大変な手間なんですが、これだと一切実に傷がつかないので、酸化を抑えるには理想的な方法です。私たちをはじめ、香川県の国産オリーブオイルの生産者はみんなこのようにして手間をかけて収穫しています。だから、酸度が0.2%台という低い数値を実現できるんです。
このように丁寧に収穫した実を、手入れの行き届いた搾油機で搾ることによって、フレッシュな香りのエクストラバージンオリーブオイルが出来上がるのです。そのようなオイルは、よほどのことがない限り、オリーブオイル鑑定士による官能試験を受けて「デフェット」の判定を受けることはありません。
以前にもお話した通り、オリーブはまだ実が青く未熟な状態にたっぷりのポリフェノールが含まれています。だんだん熟すにつれその強い抗酸化作用を持つポリフェノール成分が失われていくため、酸度を下げるためには、青く未熟な実を搾るということも重要です。
手摘みなんで、手間はかかるわ、未熟なんでオイルは少ししか出てこないわ、本当に品質の高いオリーブオイルを搾ろうと思うと、大変なコストがかかるんです。オリーブオイルの値段って、量販店で300円台のものから、専門店で3,000円台のものまでピンからキリまであるのは、どこまで手間をかけたかっていう結果なんです。
手間暇かけて搾ったエクストラバージンオリーブオイルは、それぞれの品種や収穫方法、搾油方法によって、実に個性豊かな味や香りを放ちます。次回はその個性についてお話いたします。