オリーブオイルの4つのお仕事 ③香りを引き出す

オリーブオイルのよく似た仕事に「香りを付ける」というのもあります。オリーブオイルは品種や搾った時期、搾る時の温度によって、それぞれ違った香りが出てきます。例えば日本人の多くが好きなのはシチリアの代表的な品種「トンダイブレア」の持っている華やかなトマトの香り。ほかにも青リンゴ、夏の草いきれ、アーティチョークなどといろいろな例えで表現されます。アーモンド香というのもその一つ、日本人にとってアーモンドってチョコレートの中に入っているカリッとして香ばしいナッツ。そんな香ばしい香りをオリーブオイルに感じたことないぞ?

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これは、イタリアに行ったときにオリーブ農家が見せてくれたアーモンドの実。生のアーモンドを見たのは生まれて初めて、でその香りとは
「あ、この香り知ってる、杏仁豆腐!」
そうなんです、アーモンド香って杏仁豆腐のあの独特の香り、ベンゼンスルホン酸に代表される芳香族系の香りのことなんです。梅干しの仁(種を割ると出てくる核)なんかもおんなじ香りしますよね。
こういったオリーブオイルの持つ強い香りで、料理に積極的に香りをつけていく使い方もあります。こちらは単純、お野菜のサラダなんかだどトンダイブレアやイットラーナのようなフレッシュなトマトの香りをまとわせたらとっても華やかに、イノシシのラグーなんかのしっかりした味のパスタには、コショウのような強い清涼感を感じさせるドリッタやコラティーナを仕上げにかけたらとってもシャープに。
でも、もう一つオリーブオイルには大事な仕事があります。それは、食材の香りを引き出すこと。

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お豆腐にオリーブオイルをかける理由は、ひとつは淡白な味にコクみを付けるためですが、もう一つは香りを引き出すためなんです。
「豆腐にそんな香りあったっけ?」
お豆腐って大豆から出来ています、その大豆の香りがオリーブオイルによってバンバン湧き立っててくるんです。お豆腐が大豆から出来ていることを実感する瞬間です。
そしてここでもやはり条件が、「良質なオリーブオイル」を使うこと。しかもお豆腐のような優しくて繊細な食材となると、外国産の香りの強いオイルはお豆腐の個性を消し飛ばしてしまいます。ミントのような強烈な個性を持ったスペインのオヒブランカなんかもっての外。これはまた別の機会にお話ししますが、ワインと同じ、オリーブオイルも食材に合わせてマリアージュさせることがともて大切なんです。お豆腐に合わせるとなるとやはり国産の優しいオリーブオイルが一番しっくりきます。
同じようにおいしいのが「卵かけゴハン」。お醤油をたっぷりかけたいつもの卵かけゴハンに澳 OKI Oliveを数滴垂らしてあげるとまるで化けてしまいます。これには二つの効果があって、ひとつは卵のぼんやりした味をシャープに引き締める効果、そしてもう一つがお醤油の香りをグッと引き上げる効果です。お醤油はその醸造過程において「メイラード反応」という化学変化が起きています。ウナギのかば焼きや醤油せんべい、あるいは縁日の屋台のリンゴ飴なんかの甘くて香ばしい香り、これらはみんなメイラード反応によるものです。メイラード反応は通常食材を直火や鉄板で極高温にした時に出てくるものなんですが、オリーブオイルによって卵かけゴハンのような低温域でも、お醤油のメイラード反応の甘い香りを引き出すことができるんです。

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香り成分の多くは疎水性、すなわち水には溶けにくい油溶性のものなんです。お醤油の中の溶けきれなかった油溶性の香り成分が、油と出会うことで湧き出してきてリンゴ飴のような甘くて香ばしい香りが引き出されてくるんですね。
うどん県香川の名物は「釜玉うどん」。これにも澳 OKI Oliveを垂らしてお出ししたことがありますが、食べた人が言った言葉は「あれ、おうどんが甘くなった」。甘さなんか一つも加わっていないのですが、お醤油のメイラード反応の甘い香りがオリーブオイルで引き出されたことによって、脳が「甘い」と錯覚したようです。

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取引先のフレンチシェフがイチゴのデザートに澳 OKI Oliveを使ってもらっていますが、こちらもおんなじ理由、イチゴの砂糖を焦がしたような甘い香りをオリーブオイルで何倍にも引き上げるテクニックですね。
油で脂を切る働きと同様、油で香りを引き上げるという働きは一般的にはあまり知られていませんが、イタリア料理のシェフはパスタを仕上げるのに、無意識にこの働きを使っています。パスタソースはオイルが乳化したおいしさが基本ですが、乳化により油溶性の香りが中に閉じてしまうため、それをもう一度開かせるために、最後にオイルを回しかけるのです。
ウナギのかば焼きやブリの照り焼きがおいしい理由、それは油の香りを引き出す働きで、脳がおいしさを感じ取るからです。日本料理では、どうしても油の力に頼った料理には抵抗がありますが、すっきりと上品な国産オリーブオイルの力を借りることが出来たら、日本の食材の持っている奥ゆかしいうま味や香りなんかをもっと引き上げることが出来るはず。90年代のイタリアンブームからイタリア料理とともに大きく普及したオリーブオイル、これからは日本料理にもどんどん普及していってもらいたいですね。

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