オリーブオイルのお仕事の最後の一つは、臭みを消す働き。
これは実はオリーブオイルだけでなく、他のオイルでも時々使われる働き。例えばレバ刺しはゴマ油と塩で頂きますよね。これはレバ刺しの血生臭いにおいをゴマ油の焙煎した強い香りでマスキングする働きです。
オリーブオイルは品種や搾り方で様々な香りを持っています。世界中には1,400以上の品種があると言われており、香りの出方はそれこそ無限大です。
写真はイタリアラツィオ州の知り合いのオリーブ生産者「Iannotta」のオリーブLABOでのサンプルオイル。左側が25℃で搾油したもの、右側が26℃で搾油したもの。ソンニーノ地区の土着品種のイットラーナは、シチリアのトンダイブレアやノチェラーラ同様、若いトマトの香りがその特徴。左側(2b)の25℃で搾油した方はそれはそれは爽やかなトマトの香りがバンバン立ち上ってくる。それに対して26℃で搾った右側(3a)は少しクセの強いアーモンド香、悪い言い方をするとガソリン系の香りを感じる。搾油温度のたった1℃の違いでこれだけオリーブオイルの香りが変わってしまうんです。
オリーブオイルだけが持つこの個性的な香りで、いろいろな食材に香りを付けていきます。その作用はレバ刺しのゴマ油同様、時として生臭いものや酸化した油の酸敗臭みたいなネガティブな臭いをマスキングする働きもあります。
サバ、イワシ、サンマみたいないわゆる青物と呼ばれる魚はオメガ3脂肪酸の代表選手のドコサヘキサエン酸という多価不飽和脂肪酸が主成分。体にいいと言われるこのドコサヘキサエン酸、難点はその多価二重結合がとっても酸化しやすくて、すぐに生臭くなってしまうこと。お魚がキライな小学生がキライなのは実はお魚そのものではなくて、この酸敗臭なんです。そんな青魚の生臭さもオリーブオイルをかけると、あら不思議、臭みが消えてしまった。
今度はスーパーの特売で買ってきたアジフライだ。ただでさえ真っ黒けで疲れきった油で揚げた上に、もう賞味期限間近。案の定、油のいやな臭いで匂いかいだだけで胃もたれしそう。ところがこれに新鮮なエクストラバージンオリーブオイルをかけてあげると、あら不思議、総菜のアジフライがスッキリしてフランス料理屋さんで食べるコートレットに大変身!・・・すみません、ちょっと盛りすぎました。でも嫌な油の臭いは消えて、とてもお惣菜屋さんの特売とは思えないレベルになってくれます。
「澳さん、これに澳 OKI Oliveかけるのはどう思う?」
澳 OKI Oliveのユーザーの銀座のお鮨屋さんの大将から聞かれました。とても奥深い質問です。赤貝って好きな人は大好き、あの磯臭さがたまらないんですよね、私も大好きです。ところが赤貝が苦手な人もたくさんいて、そういう人はその磯臭さを「生臭さ」としてネガティブに捉えます。ここにオリーブオイルをかけるとそのマスキング効果で見事にその生臭さを取り去ってくれます。ところが、赤貝にとってはその独特の磯臭さこそ身上、オリーブオイルかけて食べると赤貝食べてる感がなくなってしまうんですね。
これなんかもオリーブオイルかけるとその評価が分かれる食材の一つ。イクラに澳 OKI Oliveかけたら、ともてさっぱりしておいしくなるんです。でも何口か食べた後ふと感じたのは
「あれ、今イクラ食べてたんだっけ?」
イクラもあの独特の香りがイクラらしさなんですよね、それをオリーブオイルで切ってしまうと「とってもおいしい赤色のプチプチした食品」になるんです。
大将の質問に対する回答は「その料理のテーマがなにか」です。赤貝は磯臭さが身上ではあれ、独特の淡い甘みも持っています。もしそれを強調したいのであれば磯臭さを抑えるという方法もあります。
ここまでお話したオリーブオイルの4つのお仕事。良質なオリーブオイル、この新しい武器を手に入れた料理人がそれをどうしたらうまく使いこなせるのか。
そのポイントは「アーティスティック」であること。料理とは星付きシェフであれ、家庭のお母さんであれ、週末パパのカレーであれ、みんな誰かを喜ばせるためのもの。その喜ぶ笑顔から逆算して、足し算したり引き算したりする総合芸術。主役であるお肉や魚やお野菜に対して、脇役のオリーブオイルにどんな仕事をさせるのか。コクを付けるの?油っこさを切るの?香りを付けるの?臭みを消すの?禅問答みたいに答えのない中をさまよいながら、ふっと決まった瞬間が訪れた時こそ至福の時です。