オリーブオイルの働きのもう一つが「油っこさを切る」という仕事。
脂のしっかり乗った豚ロースソテーにオリーブオイルをかけると、あら不思議、脂っこさが消えて爽やかになっていく。同じように脂がしっかり乗ったマグロのトロにお醤油と一緒にオリーブオイルをかけると、あら不思議、トロのコクみはそのまま残しつつ脂のしつこさだけが消えていく。エビの天ぷらだって変えてしまう、揚げたてのエビ天にほんの少しのオリーブオイルをかけると、え?びっくり、天ぷら油のくどさがスッキリ切れてしまう。
論より証拠で食べてみればわかる、と言いたいところなんですが、残念ながらこちらはある条件の揃ったオリーブオイルでなければ実感できません。だからこそ、普段の料理のなかでオイルで油っこさを切るということが理解できないんです。
その条件とは「上質なエクストラバージンオリーブオイル」であるということ。
「なんだ、またそれかよ」
初回の「エクストラバージンがピリリと辛い?」のコラムでお話した通り、上質なオイルとはオリーブの果実が完熟する前に搾ったもので、そのようなオイルはたっぷりのポリフェノールが入っており、ピリッとした辛みを感じるものです。一つはこのポリフェノールの辛みがワサビと同じような効果で、油っこさを切るというわけです。
そしてもう一つ、未熟な果実から搾ったオイルはサラッとして油っこさを感じないものなんです。そのあたりの化学的な根拠はまた別の機会にしますが、このしつこくないというオイルの性質が、脂っこい料理を爽やかにするんです。
フランス料理店でバターやクリームなどの乳脂肪のこってりした料理を食べると「これは水では切れないね、ワインを飲もう」ってなりますよね。そうなんです、水と油とは相交わらない真反対な性質。だからそれを仲介して切ってあげるのにアルコールであるワインを飲みたくなるのです。アルコール{エタノール}は両親媒性溶媒と言われる、水とも油とも親和性が高い物質なんです。
もう一つの例、油性のサインペンで書いた落書きは水では落とせないですよね。こちらは石油製品であるベンジンなどで落とします。
そうなんです、油を切るためには水では切れないんです、油を落とすにはやはり油(親油性溶媒)が必要なんです。
中華料理に「東坡肉」という豚の背脂をたっぷりまとった料理があります。このお料理作るのに、豚バラ肉の背脂の側をたっぷりのサラダオイルでジューと揚げ焼きにする工程があるんですが、これはまさにサラダ油で豚の背脂を溶かし出す工程なんです。実験によると5分間の加熱で24%も脂肪が落ちるそうです。
「質問です、東坡肉作るのにどんな油でもいいんですか?例えばラードは?」
いい質問です。答えは油っこさの「落差」
同じ油脂でもその脂肪酸の種類によっていわゆる油っこさが違ってきます。一番わかりやすいのは動物性油脂に多く含まれる「飽和脂肪酸」と植物性油脂に多く含まれる「不飽和脂肪酸」の違い。動物性であるラードやバターなんかはとっても重たくて油っこいのに対して、菜種油やゴマ油なんかの植物油はもう少しサラッとしてますよね。より油っこいものから、油っこさが少ないものに油分が移動していくので、油っこさが切れるというメカニズムなんです。液体の浸透圧とちょっと似てますね。
そしてオリーブオイル、それも未熟な果実から搾ったエクストラバージンオイルは、植物油の中でもダントツにサラッとしたオイルなんです。だからどんな種類の油がやってきてもサラッと切ってしまう。トランプで言えばどんなカードが来てもひっくり返してしまうジョーカーみたいな存在。ズルいよオリーブオイル。