オリーブ農家にとって一番うれしいシーズンは、なんといっても収穫を迎える秋。ところが秋にはオリーブ農家にとって一番榑しくないこともやってくる。台風である。国産オリーブ農家の私たちに限ってじゃなくて、すべての日本の農家にとってとても厄介な存在だ。オリーブ農家にとっての被害は2つ、一つは果実に対して、もう一つは木そのものに対して。
風が吹くと当然実が落ちる、おリンゴなんかだと、落ちた実をジュースにしたりしてなんとか使い道を考えるもんだけど、オリーブの落ちた実だけは、なんとも使い道がない。台風がやってくる9月は収穫するにはまだだいぶ早い時期で、こんな時期の果実を搾ってもほとんど油は出てこないし、落ちた実を拾って搾った油は土臭さが残る可能性があるから使わないのが、高品質なオリーブオイルを作る大原則。
もう一つの被害は木が倒されること、これは堪える。台風に備えてつっかえ棒みたいに支柱を取り付けてはあるんだけど、大きな台風が来たときはひとたまりもなくやられてしまう。傾いたり、倒されたり、ひどいものは根っこから持ってかれて、5メートルも先に転がっていることもある。ホントに心が痛む。1メートルに満たない小さな苗木から大切に育ててきたオリーブたちが倒された姿を見ると、心が張り裂けそうになる。
そんな悲劇を少しでも減らすために、支柱を取り付けるのもオリーブ農家のお仕事。支柱の立て方もいろいろあって、よく街路樹にあるようなH型に支える方法だったり、3本足の支柱を組んでみたり、中には海岸沿いの強い風に備えて3メートル以上の巨大な支柱を組んでいる農家もある。
でも、ウチのオリーブ畑は一本足だけ。頼りないことこの上ない。ガッチリ固定してしまえば倒れる心配は少なくなるんだけど、根っこが丈夫に育ってくれない。行ってみれば赤ちゃんがいつまでたっても歩行器の中で歩いているようなもの。
で、支柱をオリーブの木にヒモで取り付けるわけだけど、もちろんオリーブの木は年々大きく育っていくから、ヒモがどんどん幹に食い込んでいってしまう。
ほら、なんかボンレスハムみたいになってるでしょ。木の成長にとっては形成層という樹皮と幹の間の部分がとっても大事、その部分がこんな感じで締め付けられてしまうと、動脈硬化起こしたみたいで木はとっても苦しい。
ヒモを外したら、あら、こんなに食い込んじゃって。
木を一本ずつチェックして、ヒモを新しいのに付け替えてやるのも、オリーブに対する大切なお世話。丈夫で生命力の強いオリーブだけど、やっぱり手をかけたらかけた分だけ応えてくれる。
時にキビしく、時にやさしく、良い子を育てるのとおんなじ。